
この銘柄、まずは"分析"からいっしょに見ていきましょう。
事業と業績までを無料で公開しています。バリュエーションと"結論"パートは、筆者の個人用メモとして非公開にしています。
1. エグゼクティブサマリー
銘柄概要 — KLA Corporation は半導体前工程の検査・計測(process control)で圧倒的地位を持つ装置メーカーである。ウェハ上の欠陥検出、パターン計測、レチクル検査を担い、先端ノードにおける「歩留まり管理」という工程を独占的に押さえる。2025年の process control 市場シェアは58%(2021年比 +360bp)で、CEO Rick Wallace は「最も近い競合の6倍の規模」と表現する。FY2026(2026年6月期)は売上 $13,579.5M、GAAP純利益 $4,830.8M、GAAP希薄化EPS $3.66(分割後)を計上。非GAAP粗利率62.4%・非GAAP営業利益率43.7%(Q4)は装置業界で最高水準にあり、AMAT(直近 FY26 Q3 の非GAAP営業利益率 34.0%)・LRCX(38.4%)を明確に上回る。売上の約23%を占めるサービス事業(Q4 $820M、+17% YoY)が景気変動の緩衝材として機能する。
受注残(RPO)は $12.57B と前年の $7.86B から+60%に膨張し、一部製品のリードタイムは18〜24ヶ月に達している。会社はCY2026のWFE市場を約$150B(前年比mid-20%成長)、CY2027の業界計画ケースを約$190Bと提示。先端パッケージング向け process control 売上はCY2025 $635M → CY2026 約$1.1B(+70%超)へ加速する。一方で株価はこの好材料をすでに大きく織り込んでいる。過去52週で+118%上昇し、2026年6月30日に終値ベース最高値 $301.71 を記録した後、現在は $203.72 まで約34%調整した局面にある。FY2027コンセンサスEPS $5.31 に対する予想PERは38.4倍で、AMAT(31.9倍)を上回りASML(39.2倍)・LRCX(38.1倍)と同水準。事業は買いたいが、現在の価格では期待リターンとダウンサイドが釣り合わない、という位置づけである。
最大リスク — 最大の懸念はバリュエーションとシクリカリティの組み合わせである。KLAは典型的なシクリカル銘柄であり、現在の利益水準はAI設備投資ブームのピーク近傍にある可能性が高い。「高EPS × それでも高PER」という現状は、利益とマルチプルが同時に収縮するダブルパンチのリスクを内包する。DCF法による試算は $119.50 と現在株価を大きく下回り、市場が会社自身の2030年計画を大幅に上回る成長を織り込んでいることを示す。第二のリスクは中国規制で、中国売上比率はFY2024 43% → FY2025 33% → FY2026 30%(Q4は26%)へ低下を続けており、BIS Affiliates Rule が2026年11月9日に自動再発効する予定である。米商務省は既にKLAらに対し中国 Hua Hong 向け一部装置の出荷停止を指示している。第三に、メモリ部材価格の上昇が粗利率に約100bpの逆風となり、これはCFO Bren Higgins によれば2027年まで継続する見込みである。
2. 事業構造と競争優位性
2-1. 事業ポートフォリオ
KLAは3つの報告セグメントを持つが、収益・利益の大半は第1セグメントに集中する。
| セグメント | 内容 | 位置づけ |
|---|---|---|
| Semiconductor Process Control | ウェハ検査、パターン計測、レチクル検査、データ解析。売上の大宗を占める中核 | 市場シェア58%・最大の利益源 |
| Specialty Semiconductor Process | 化合物半導体、MEMS、パワーデバイス等向けのエッチング・成膜 | ニッチ補完 |
| PCB, Display and Component Inspection | 基板・ディスプレイ・部品検査。先端パッケージング基板の追い風あり | 周辺領域 |
サービス事業は上記を横断する形でFY2026売上の約23%(Q4単独 $820M、+17% YoY)を構成する。装置の稼働台数(installed base)に紐づくリカーリング収益であり、装置販売がサイクルで振れてもサービスは相対的に安定する。これがKLAの利益の質を装置業界平均より一段引き上げている。
2-2. 顧客・地域・製品ミックス
| 区分 | 直近実績 |
|---|---|
| Foundry/Logic 比率(Process Control系統) | 73%(Q1 FY2027見通し) |
| Memory 比率 | 27%(うちDRAMが約90%) |
| 中国売上比率 | FY2026通期 30% / Q4 26% / Q3 24.3% |
| 台湾 | 25.5%(Q3 FY2026) |
| 韓国 | 20.0%(同) |
| 北米 | 12.0%(同) |
Foundry/Logic 偏重(73%)は、メモリ価格サイクルに振られやすいLRCXとの明確な差別化要因である。同時にDRAM(HBM含む)が memory の90%を占め、NANDへの依存が小さい点も収益安定性に寄与する。
2-3. Moat(参入障壁)の中核
KLAの堀は「単一技術」ではなく4層の複合構造にある。
- 歩留まりデータの累積という不可逆資産 — 検査装置は「欠陥を見つける」だけでなく「どの欠陥が歩留まりに効くか」を判定する。この判定精度は顧客の実プロセスで蓄積した膨大なデータに依存し、後発が同等のデータ資産を構築するには顧客の量産ラインへの長期アクセスが必要となる。装置スペックだけでは追いつけない。
- 歩留まり管理の失敗コストの非対称性 — 先端ロジックのウェハ1枚の価値が極めて高い現在、検査装置を安価な代替品に切り替えて歩留まりを落とすリスクは、装置価格の節約額を桁違いに上回る。顧客側に切り替え動機が働きにくい。
- プロセス複雑化に伴う検査強度(process control intensity)の構造的上昇 — GAA(Gate-All-Around)、バックサイド電力供給(BSPDN)、High-NA EUV への移行はいずれも工程数と欠陥モードを増やす。KLAは自社シェアが「intensity の上昇 + シェア獲得 + 先端パッケージング」によりWFE全体に対する取り分を150bp超引き上げると見込む。すなわちWFE市場成長率を上回る成長が構造的に期待できる。
- 先端パッケージングという第二の成長軸 — HBM とハイブリッドボンディングは新たな検査需要を創出する。会社は「HBMは intensity の観点でユニークな存在であり、一部製品では先端ロジック並みの process control intensity に達する」と説明。先端パッケージング向け process control 売上はCY2025 $635M → CY2026 約$1.1B(+70%超)と市場成長率の約2倍で拡大している。
2-4. SWOT分析
| 強み(Strengths) | 弱み(Weaknesses) | |
|---|---|---|
| 内部要因 | ・process control シェア58%、2位の6倍規模<br>・非GAAP粗利率62.4%・営業利益率43.7%は装置業界最高<br>・サービス比率23%(+17%成長)による収益安定性<br>・受注残$12.57B(+60% YoY)、リードタイム18〜24ヶ月<br>・FY2026 FCF $3,767M、資本還元$3,348M | ・単一機能(検査・計測)特化ゆえの事業分散の乏しさ<br>・Foundry/Logic 73%集中で先端ノード顧客数社への依存<br>・メモリ部材価格上昇による粗利率100bp逆風(2027年まで継続見込み)<br>・シクリカル業種であり利益変動が大きい |
| 機会(Opportunities) | 脅威(Threats) | |
| 外部要因 | ・WFE市場 CY2026 $150B → CY2027 計画ケース $190B<br>・GAA/BSPDN移行で検査工程が構造的に増加<br>・HBM・ハイブリッドボンディング向け新規需要<br>・2030年目標(売上$26B、EPS$8.40、営業利益率45-47%)は現状のWFE見通しに対し保守的で上方修正余地 | ・BIS Affiliates Rule の2026年11月9日自動再発効<br>・中国 Hua Hong 向け出荷停止指示(既発)<br>・中国国産検査装置メーカーの台頭(現状は限定的だが中長期の構造脅威)<br>・AI設備投資の反動減とWFEサイクル調整<br>・38倍の予想PERゆえのマルチプル収縮リスク |
3. 直近業績とファンダメンタル
3-1. EDGAR確定値(一次情報)
以下はSEC XBRL(CIK 0000319201)の確定値である。KLAは6月末決算の変則決算期であり、EDGAR上は2025-06-30締めの四半期行が欠落しているため、5行の単純合計をTTMとして扱っていない。EDGARの最新四半期締め日は2026-03-31であり、その後のQ4(2026年6月期)はIR/8-K開示値を使用している。
| 締め日(end) | 区分 | 売上 | 純利益 | 希薄化EPS(EDGAR原表示) | EPS 分割後換算 |
|---|---|---|---|---|---|
| 2026-01-01→2026-03-31 | 10-Q | $3,415.1M | $1,201.0M | $9.12 (分割前表示) | $0.912 |
| 2025-10-01→2025-12-31 | 10-Q | $3,297.1M | $1,145.7M | $8.68 (分割前表示) | $0.868 |
| 2025-07-01→2025-09-30 | 10-Q | $3,209.7M | $1,121.0M | $8.47 (分割前表示) | $0.847 |
| 2025-01-01→2025-03-31 | 10-Q | $3,063.0M | $1,088.4M | $8.16 (分割前表示) | $0.816 |
| 2024-10-01→2024-12-31 | 10-Q | $3,076.9M | $824.5M | $6.16 (分割前表示) | $0.616 |
通期(10-K):
| 決算期 | 売上 | 純利益 | 希薄化EPS | 備考 |
|---|---|---|---|---|
| FY2026(〜2026-06-30) | $13,579.5M | $4,830.8M | $3.66 | 分割後表示に遡及調整済み |
| FY2025(〜2025-06-30) | $12,156.2M | $4,061.6M | $3.04 | 分割後表示(原表示 $30.40 相当) |
| FY2024(〜2024-06-30) | $9,812.2M | $2,761.9M | $2.03 | 分割後表示(原表示 $20.28 相当) |
| FY2023(〜2023-06-30) | $10,496.1M | $3,387.3M | $24.15 | 分割前表示のまま(換算 $2.42) |
FY2023の $24.15 だけが分割前表示で残っている点に注意。時系列比較では $2.42 を用いる。
バランスシート(EDGAR):
| 項目 | 2026-06-30 | 2025-06-30 |
|---|---|---|
| 総資産 | $17,951.5M | $16,067.9M |
| 株主資本 | $6,349.8M | $4,692.5M |
| 現金及び現金同等物 | $1,649.8M | $2,078.9M |
※現金同等物に加え短期投資を含めた手元流動性はQ4時点で約$4.9B(IR開示)。
3-2. Q4 FY2026 実績とFY2027ガイダンス(IR / 8-K)
| 指標 | Q4 FY2026 実績 | 前年同期比 |
|---|---|---|
| 売上 | $3,658M(過去最高) | +15.2% |
| GAAP純利益 | $1,363M | — |
| GAAP希薄化EPS | $1.04 | — |
| 非GAAP希薄化EPS | $1.05 | +11.7% |
| 非GAAP粗利率 | 62.4% | — |
| 非GAAP営業利益率 | 43.7% | — |
| フリーキャッシュフロー | $817M | — |
| 株主還元(四半期) | $876M | — |
| 指標 | FY2026 通期 |
|---|---|
| 売上 | $13,579M |
| GAAP粗利率 | 61.3% |
| GAAP希薄化EPS | $3.66 |
| 非GAAP希薄化EPS | $3.76 |
| 営業CF | $4,143M |
| フリーキャッシュフロー | $3,767M |
| 資本還元合計 | $3,348M(FCFの89%) |
Q1 FY2027ガイダンス(2026年9月期):
| 項目 | ガイダンス | 含意 |
|---|---|---|
| 売上 | $4.0B ± $200M | 前年同期 $3,209.7M 比 +24.6% |
| 非GAAP希薄化EPS | $1.16 ± $0.10 | 四半期で初の$1.1台 |
| GAAP希薄化EPS | $1.14 ± $0.10 | — |
| 非GAAP粗利率 | 62.5% ± 1.0% | 引き続き改善 |
3-3. 受注残とサイクル位置
最も重要なファンダメンタル指標は受注残(RPO)の膨張である。
| 時点 | 受注残 |
|---|---|
| 2026-06-30 | $12.57B |
| 2025-06-30 | $7.86B |
| 増減 | +59.9% |
FY2026売上 $13.58B に対し受注残 $12.57B は約0.93年分に相当する。一部製品のリードタイムは18〜24ヶ月に達しており、これはFY2027の売上見通しに対する可視性が異例に高いことを意味する。CEO Wallace は「6月四半期の結果は成長を牽引するトレンドが強まっていることを裏付けており、2026年後半に加速し2027年も継続するモメンタムを事業全体で確認している」と述べた。
WFE市場見通し:
| 暦年 | WFE市場規模 | 成長率 |
|---|---|---|
| CY2025 | 約$120B(推計) | — |
| CY2026 | 約$150B | mid-20%台 |
| CY2027(業界計画ケース) | 約$190B | 約+27% |
なお会社が2026年4月に提示した2030年長期モデルは「WFE $215B(2025-2030 CAGR 11%)」を前提としている。しかしCY2027時点で既に$190Bに到達する計画ケースが示されており、2027→2030のCAGRがわずか4%という非現実的な前提になっている。この長期モデルは実質的に陳腐化しており、次回投資家説明会での上方修正余地が大きい(後述のカタリスト参照)。
3-4. 収益性の質
| 指標 | KLAC FY2026 | 評価 |
|---|---|---|
| 非GAAP粗利率 | 62.4%(Q4) | 装置業界最高水準。長期目標60-65%レンジ内 |
| 非GAAP営業利益率 | 43.7%(Q4) | 同業を5〜11pt上回る |
| FCFマージン | 27.7%($3,767M / $13,579M) | 極めて高い |
| ROE | 約87.5%(平均株主資本ベース) | 自社株買いで資本が圧縮されている点に留意 |
| 配当 | $0.23/四半期(分割後、+21%増配) | 年換算$0.92、利回り約0.45% |
| ネット負債 | 約$1.1B(有利子負債約$6.0B − 手元流動性$4.9B) | 実質無借金に近い |
営業レバレッジについて、会社は「長期的に増収に対し40〜50%の増分営業利益率」を実現するモデルと説明している。