
この銘柄、まずは"分析"からいっしょに見ていきましょう。
事業と業績までを無料で公開しています。バリュエーションと"結論"パートは、筆者の個人用メモとして非公開にしています。
1. エグゼクティブサマリー
銘柄概要
Lam Research は、半導体前工程装置(WFE: Wafer Fabrication Equipment)のうち エッチング(除去)と成膜(堆積) に特化した専業メーカーである。露光の ASML、検査計測の KLA、総合装置の Applied Materials(AMAT)と並ぶ WFE 四強の一角だが、他の3社と決定的に異なるのは メモリ(NAND / DRAM)への露出の高さ と 高アスペクト比加工における事実上の寡占 である。3D NAND のメモリホールを 200層、300層、500層と垂直に貫通させる誘電体エッチングは、物理的難度が極めて高く、Lam の Vantex / Flex シリーズがデファクトスタンダードになっている。FY2026 第4四半期(2026年6月28日締め)のシステム売上構成はメモリ 46%(過去最高)、ファウンドリ 44%、ロジック・その他 10% で、NAND がシステム売上の 23%(前四半期 12% から金額ベースで倍以上)に急拡大した。加えて、9万台超のインストールベースから生まれるアフターサービス部門 CSBG(Customer Support Business Group)が四半期売上の 37.2%(約 $2.5B) を占め、装置サイクルの谷を埋める年金型収益として機能している。
FY2026 通期(2026年6月28日期末)は SEC 10-K ベースで売上 $23,232.7M(前期比 +26.0%)、営業利益 $8,199.8M(同 +38.9%、営業利益率 35.3%)、純利益 $7,265.4M、希薄化EPS $5.76 と、いずれも過去最高を更新した。2026年7月29日発表の第4四半期は売上 $6.72B(前年同期比 +30%)、非GAAP粗利率 52.0%(過去20年で最高)、非GAAP営業利益率 38.4%。会社は CY2026 の WFE 市場見通しを従来の $140B 台から「low $150B」へ引き上げ、CY2027 については新規ファブ 8〜10 本の立ち上げを背景に「extraordinary setup(並外れた地合い)」と表現している。
最大リスク
最大のリスクは 「業績のピーク」と「マルチプルのピーク」が同時に来ること である。LRCX は今、記録的な営業利益率(39.5%ガイド)に記録的なPER(38.6倍)が掛かった状態にある。シクリカル銘柄でこの組み合わせが崩れるときは、EPS が 20% 落ちるだけで株価が 40〜50% 落ちる。実際に 2026年6〜8月のわずか1ヶ月強で −42% のドローダウンが起きたばかりで、これは業績悪化ではなく 期待値の巻き戻しだけ で発生した。加えて、同業 AMAT が 2026年8月13日に過去最高の Q3 決算(売上 $9.12B、+25% YoY)を出しながら翌日株価が −5% となった事実は、セクター全体が「priced to perfection(完璧を織り込み済み)」の領域にあることを示している。副次リスクとして、中国売上比率の変動(FY2026 Q1 の 43% から Q4 は 26% へ低下、輸出規制で CY2026 に約 $600M のマイナス影響を会社が試算)と、メモリ大手3〜4社への極端な顧客集中がある。
2. 事業構造と競争優位性
2-1. セグメント別売上構成(FY2026 第4四半期・2026年6月28日締め)
| 区分 | 構成比 | 内容 |
|---|---|---|
| Systems(装置) | 62.8% | エッチング、成膜、クリーン装置の新規販売 |
| CSBG(顧客支援) | 37.2%(約 $2.5B) | スペアパーツ、サービス、アップグレード、Reliant(成熟ノード装置)、Equipment Intelligence |
Systems 内訳(デバイス別)
| デバイス | システム売上比 | 前四半期からの変化 |
|---|---|---|
| メモリ計 | 46%(過去最高) | 上昇 |
| └ NAND | 23% | 12% → 23%(金額は倍以上) |
| └ DRAM | 23% | 前四半期(過去最高)から横ばい |
| ファウンドリ | 44% | 2nm / 3nm 先端投資が牽引、中国成熟ノードの弱さを相殺 |
| ロジック・その他 | 10% | — |
地域別売上(FY2026 Q4)
| 地域 | 比率 | 備考 |
|---|---|---|
| 台湾 | 27% | 過去最高水準 |
| 中国 | 26% | 前四半期 34% から低下 |
| 韓国 | 20% | メモリ2社(Samsung / SK hynix) |
| その他 | 27% | 日本、米国、東南アジア等 |
CSBG は3四半期連続で過去最高を更新し、前年同期比 +43%、前四半期比 +17% で伸びた。この部門はインストールベース(累計出荷チャンバー)の関数なので、新規装置売上が伸びるほど後年の CSBG が積み上がる ラチェット構造 を持つ。装置サイクルが調整局面に入っても CSBG は落ちにくく、これが LRCX の下方硬直性の源泉である。
2-2. Moat(競争優位性)
① 高アスペクト比エッチングの寡占3D NAND のメモリホール加工は、直径 100nm 以下の穴を 10μm 近く垂直に掘る工程で、アスペクト比 100:1 超に達する。この領域では代替装置がほぼ存在せず、Lam の Vantex / Flex 系が事実上の標準になっている。NAND のレイヤー数が 128層 → 256層 → 500層超へ進むにつれ、ウェハ1枚あたりの Lam の SAM(獲得可能市場)は倍増する と会社は説明している。これは「ウェハ枚数が増えなくても売上が増える」構造で、単なる設備投資ベータではない。
② プロセスレシピの固着(スイッチングコスト)半導体製造では、量産に入ったレシピを別ベンダーの装置に移植することは事実上不可能に近い。一度採用されると次世代ノードでも継続採用されるため、インストールベースは実質的に永続的な収益基盤になる。
③ CSBG による年金型キャッシュフロー売上の 37% がアフターサービス。装置サイクルの振幅を吸収し、粗利率も装置本体より高い。会社が長期目標として掲げる「粗利率 mid-50%、営業利益率 mid-40%」の達成は、CSBG 比率の上昇が前提になっている。
④ 隣接 SAM への拡張ドライレジスト(EUV パターニング向け、ASML と協業)、SABRE 3D 電解めっき(TSV / ハイブリッドボンディング=HBM 向け)、パネルレベルパッケージング、ゲートオールアラウンド向け ALD。会社は SAM を WFE の「high-30%台」へ拡大するとしており、先端パッケージング関連は前年比 +70% 超の成長を見込む。
2-3. SWOT
| プラス | マイナス | |
|---|---|---|
| 内部 | Strengths<br>・高アスペクト比エッチングの寡占<br>・CSBG 37% の安定収益<br>・営業利益率 38.4%(同業 AMAT 34.0% を上回る)<br>・ROE 約65%(平均株主資本ベース)、ROIC は WFE 純粋プレーヤーで最高水準<br>・GAAP EPS $5.76 と非GAAP $5.82 の乖離がわずか $0.06=会計品質が高い | Weaknesses<br>・WFE 単一依存(AMAT のディスプレイ事業、KLAC の検査独占のような分散がない)<br>・メモリ比率 46% でサイクル振幅が大きい<br>・顧客集中(Samsung / SK hynix / Micron / TSMC / Intel / Kioxia / 中国勢)<br>・受注残(backlog)を開示せず、繰延収益 $2.43B しか先行指標がない |
| 外部 | Opportunities<br>・CY2026 WFE が low $150B へ上方修正、CY2027 は新規ファブ 8〜10 本<br>・NAND の 256層以上への転換投資が始まったばかり<br>・DRAM が 2027年に最速成長セグメントとの会社見通し(HBM 増産)<br>・NAND SAM/ウェハが 500層超で倍増<br>・先端パッケージング +70% 超成長 | Threats<br>・AI 設備投資のピークアウト/過剰設備懸念<br>・米中輸出規制の追加(CY2026 に約 $600M のマイナス影響を会社試算)<br>・東京エレクトロン(エッチング最大のライバル)、AMAT(成膜で正面競合)との価格競争<br>・メモリ価格急落による顧客の投資凍結<br>・PFAS 規制などサプライチェーン制約 |
2-4. 競合ポジション
| 企業 | 主戦場 | LRCX との関係 |
|---|---|---|
| Applied Materials(AMAT) | 成膜・イオン注入・CMP・総合 | 成膜で正面競合。規模は上だが利益率は LRCX が上(非GAAP営業利益率 34.0% vs 38.4%) |
| 東京エレクトロン(TEL) | エッチング・コータ/デベロッパ | エッチングにおける最大の競合。コータ/デベロッパは非競合 |
| KLA(KLAC) | 検査・計測 | 非競合。工程が異なり補完関係。マージンは KLAC が最高 |
| ASML | 露光(EUV / DUV) | 非競合。むしろドライレジストで協業 |
| ASM International | ALD | 成膜の一部で競合 |
ユーザーが同時にカバーする AMAT(総合・分散型)、KLAC(検査・高マージン独占型) に対し、LRCX は「メモリ設備投資への最も純度の高いベータ」 という位置づけになる。上げも下げも最も振幅が大きい。
3. 直近業績とファンダメンタル
3-1. 通期業績(SEC EDGAR / 10-K 確定値・GAAP)
| 決算期(期末) | 売上高 | 営業利益 | 営業利益率 | 純利益 | 希薄化EPS |
|---|---|---|---|---|---|
| FY2023(2023-06-25) | $17,428.5M | $5,174.9M | 29.7% | $4,510.9M | $3.32 |
| FY2024(2024-06-30) | $14,905.4M | $4,263.9M | 28.6% | $3,827.8M | $2.90 |
| FY2025(2025-06-29) | $18,435.6M | $5,901.0M | 32.0% | $5,358.2M | $4.15 |
| FY2026(2026-06-28) | $23,232.7M | $8,199.8M | 35.3% | $7,265.4M | $5.76 |
FY2026 は前期比で売上 +26.0%、営業利益 +38.9%、純利益 +35.6%、EPS +38.8%。FY2024 のメモリ不況の谷(EPS $2.90)から2年で EPS はほぼ倍増した。すべて 2024年10月実施の 1:10 株式分割後ベース で統一している(分割前 EPS で引用すると FY2024 は $29.0 に相当するが、本レポートでは一切使用しない)。
3-2. 四半期業績(EDGAR 確定値・締め日ベース)
LRCX は 6月末期末の変則決算期 のため、締め日で期を判断する。
| 四半期(締め日) | 会計期 | 売上高 | 営業利益 | 営業利益率 | 純利益 | 希薄化EPS |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 2024-09-30 → 2024-12-29 | FY25 Q2 | $4,376.0M | $1,333.9M | 30.5% | $1,191.0M | $0.92 |
| 2024-12-30 → 2025-03-30 | FY25 Q3 | $4,720.2M | $1,561.8M | 33.1% | $1,330.7M | $1.03 |
| 2025-06-30 → 2025-09-28 | FY26 Q1 | $5,324.2M | $1,829.1M | 34.4% | $1,568.7M | $1.24 |
| 2025-09-29 → 2025-12-28 | FY26 Q2 | $5,344.8M | $1,810.2M | 33.9% | $1,594.0M | $1.26 |
| 2025-12-29 → 2026-03-29 | FY26 Q3 | $5,841.5M | $2,047.0M | 35.0% | $1,825.5M | $1.45 |
| 2026-03-30 → 2026-06-28 | FY26 Q4 | $6,722.2M(逆算) | $2,513.5M(逆算) | 37.4% | $2,277.2M(逆算) | $1.81(逆算) |
3-3. FY2026 第4四半期の要点(2026年7月29日発表・IR / 非GAAP)
| 項目 | 実績 | 前四半期 | 前年同期比 |
|---|---|---|---|
| 売上高 | $6.72B | +15% | +30% |
| 非GAAP粗利率 | 52.0% | 49.9% | 過去20年で最高 |
| 非GAAP営業利益率 | 38.4% | 35.0% | 過去最高 |
| 非GAAP希薄化EPS | $1.82 | — | — |
| 繰延収益 | $2.43B | +$213M | — |
| 現預金・投資 | $5.6B | — | — |
| 在庫回転 | 3.0回 | — | 約5年ぶり高水準 |
| 従業員数 | 22,400名 | +1,800名 | — |
通期の非GAAP EPS は $5.82(前期比 +41%)、非GAAP粗利率 50.6%。GAAP EPS $5.76(EDGAR 確定値)との差はわずか $0.06 で、株式報酬などの調整項目が極小である点は会計品質の高さを示す(同業比較でも良好)。
3-4. 財務健全性(2026年6月28日・10-K)
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 総資産 | $23,529.7M |
| 株主資本 | $12,470.9M |
| 自己資本比率 | 53.0% |
| 現金及び現金同等物 | $5,579.2M |
| 現預金+投資 | 約 $5.6B |
| ネットキャッシュ(概算) | 約 $1.6B |
- ROE 約 65%(FY2026 純利益 $7,265.4M ÷ 平均株主資本 $11,166M)
- ROA 約 32%(平均総資産 $22,437.5M ベース)
- 株主資本は1年間で $9,861.6M → $12,470.9M へ +26.5% 増加(自社株買いを上回る利益蓄積)
3-5. キャピタルリターン
- FY2026 の第1〜3四半期で営業キャッシュフロー $4.40B、フリーキャッシュフロー $3.62B を創出し、自社株買い・配当で $4.55B を還元
- FY2026 Q4 は自社株買い $246M、配当 $325M
- 自社株買い残枠 $4.0B(2024年5月に $10B 枠を設定)
- FY2026 通期でフリーキャッシュフローの 81% を還元、長期方針は「85%以上」
- 希薄化株式数は FY2026 平均 1,261.4M 株 → 現在 約 1,251.3M 株(時価総額 $415.9B ÷ $332.36 から逆算)と着実に減少
3-6. 2026年9月期ガイダンス(FY2027 Q1)
| 項目 | ガイダンス |
|---|---|
| 売上高 | $8.1B ±$400M(前四半期比 +20.5%) |
| 非GAAP粗利率 | 52.0% ±1pt |
| 非GAAP営業利益率 | 39.5% ±1pt |
| 非GAAP希薄化EPS | $2.15 ±$0.15 |
このガイダンスの年換算 EPS は $8.60。これが本レポートのバリュエーションの出発点になる。
3-7. 中国売上と輸出規制
中国比率は FY2026 Q1(2025年9月期)に 43%($2.28B、前年同期比 +46.5%) まで上昇したが、新たな輸出規制で特定の中国国内顧客への出荷が制限され、Q4 には 26% まで低下した。会社は規制の影響を「第2四半期に約 $200M、CY2026 通年で約 $600M」と試算している。ただし Q4 の減少分はファウンドリ(台湾 27% で過去最高)とメモリ(韓国 20%)が吸収しており、総額では過去最高を更新した 点が重要である。中国依存の低下は短期の逆風だが、中長期では規制リスクの構造的な低減を意味する。